bellwoの中国留学日記

中国政府奨学金で留学した記録です(2018.9-2019.7)

【背景推理 翻訳】占い師

翻訳・解釈の原案や引用に利用される際は当記事の URL を添えた上でその旨を明記してください。

※ネタバレ注意

※日本語版公開前の私訳です。実装される日本語訳と齟齬がある可能性があります。

赤字部分は日本語版公開後の補注。

 

 

1.椋鸟*1
*2,你还好吗?

1. 椋鳥
おい、大丈夫か?

日记1:那是一只黑底白点的小可怜,它落在一棵橡树*3下,翅膀受了伤。冬天快来了,我不能让它躺在那里等死。

日記1:それは黒地に白い斑点模様の哀れな鳥だった。楢の木の下に横たわるそれは、翼に傷を負っていた。もうすぐ冬が来ると思うと、俺にはそれをそのまま死なすことはできなかった。

 

2. 留恋
与动物建立联系是件奇妙的事。

2. 未練
動物と心を通わすというのはどうにも奇妙な出来事だ。

日记2:它的翅膀已经痊愈,试飞很顺利,但它看起来并不想离开。如果无法在冬季来临前重返鸟群,它的处境会很危险。明天再去发现它的地方试试吧。

日記2:翼は癒え、リハビリも順調だ。しかしヤツはどうにも飛び立ちたがらない。冬が来る前に群れに戻れなければ危険だ。明日、ヤツを見つけた場所でもう一度試してみよう。

 

3. 信使
椋鸟为智慧之人传讯。

3. 御使い
椋鳥は智慧ある者に伝え聞かせる。

日记3:在那棵橡树下,它终于振翅飞上枝头。可每当我试图离去,它就又会飞到我的肩膀上。看起来它希望我留在这里。

日記3:あの楢の木の下で、ヤツはついに翼を羽ばたかせ枝へと飛んだ。しかし俺が去ろうとするたびに、ヤツはまた俺の肩の上に飛んでくる。まるで俺をここに留まらせたいかのようだ。

 

4. 杜伊德*4
这是艰难的复兴,尤其是在一片被罗马人征服过的土地上。

4.ドルイド
これは成し難い復興である。とりわけローマ人が征服した土地においては。

它带来了一位真正的杜伊德先知。

それ*5は正真正銘のドルイド預言者を連れて来た。*6

 

5. 轮回
人类的灵魂是不朽的,经过一定年限后,他们将进入另一个身体。

5. 輪廻
人間の霊魂は不滅だ。定められた年月の後、彼らはまた次の身体と一つになる。

日记4:鸮的身体可以容纳尚未轮回的灵魂,他们的预言从不出错。从那双明亮的眼睛里,我总能看到不属于普通鸟类的智慧和平和。

日記4:フクロウの体は輪廻する前の魂を納めることができる。彼らの予言は誤ることがない。その二つの冴え冴えとした目から、俺はいつも並の鳥のものではない智慧と穏やかさを感じ取っていた。

 

6. 誓约
作为交换,立下不可违背的誓言。

6. 誓約
引き換えに、決して背けぬ誓いを立てる。

“无论鸮睁眼或闭眼,圣洁灵魂的言语都不应被记载于有形之物。”

「フクロウの目が開いていようと閉じていようと、神聖なる霊魂の言葉は形あるものに記されるべきではない。」

 

7. 格秋*7
如此奢侈,如此令人着迷,也如此沉重。

7. 格秋ガートルード
此くも豪奢、此くも人を惑わし、そして此くも重苦しい。

日记5:永远记得第一次见到她,那是生命中最美好的时刻之一。我不明白为什么她会如此特别,但我们一起度过的时间是如此迷人,以至于失去她成为一种不可忍受的选项。

日記5:彼女を初めて見たときのことを永遠に忘れない。それは生命の最も美しい瞬間の一つだった。なぜ彼女がこんなにも特別なのかわからない。しかし共に過ごす時間はあまりにも俺を惹き付ける。彼女を失うなどという選択は決して耐えられないものになった。

 

8. 预言
“你不应该告诉她。”

8. 予言
「彼女には教えてはならない。」

格秋的信1:感谢您对小麦市场的预言,这使我父亲避免了巨大的损失。谁能想到呢?在短暂的时间内,运输时间竟缩短了如此之多。一切都如您所言 “因为巨大变革的到来,农作物会变得唾手可得”!期待在社交季*8结束后与您见面。

格秋ガートルードの手紙1:あなたの小麦市場についての予言に感謝します。おかげで私の父は大きな損を避けることができました。誰が思ったでしょう? こんなわずかな間に輸送時間がこれほどまで短くなるなんて。「大きな変革が訪れ、作物は簡単に手に入るようになる」。全てあなたの言った通りです! 社交季のあとであなたに会えるのを楽しみにしています。

 

9. 寂静
即使再大声,也不会得到任何回应。

9. 静寂
いくら声を張り上げても、何の返事もない。

日记6:那个声音消失了。鸮知道一切,这就是违背誓约的惩罚。 

日記6:あの声が聞こえなくなった。フクロウは全てを知っている。これは誓いを破った報いなのだ。

 

10. 解决之道
我不愿后退,也不能后退。

10. 解決の道
引き返したくない、引き返せない。

格秋的信2:亲爱的伊莱,听闻你的遭遇我感到万分抱歉。至于你提到的誓约,就像威尔士的英雄勒乌·鲁·吉夫斯*9

一样。无论白昼或黑夜均不可,那便在黎明或黄昏,不论行走或骑马均不可,那就让他一只脚跨在山羊上一只脚放进锅里。总有一些窍门可以解决此事。

格秋ガートルードの手紙2:親愛なるイライへ。あなたの境遇を聞いて申し訳ない気持ちでいっぱいです。あなたの立てた誓約に至っては、まるでウェールズの英雄ライ・ラウ・ガフェスのようです。昼も夜もだめならば夜明けや夕暮れを選び、歩いているときも馬に乗っているときもだめならば片足を山羊の上に置かせもう片足は鍋の中に入れさせればよいのです。この困難を解決する妙案もきっとあるはずです。

 

11. 复响
那个声音又在我脑中响起了。

11. 再び響く声
あの声がまた頭の中で鳴り出した。

“你会收到邀请,无论是什么,答应他。”

「お前は招きを受けるだろう。いかなるものであれ、それに応じよ。」

 

 20190511 07:13 一人称についての説明を要求されたため注2を補足

 20190531 22:18 「格秋」の音訳や話題沸騰のあのポイントについて補足。全て赤字。

*1:イライの連れている鳥は間違えようもないほどフクロウなのだが、この時点ではイライがムクドリと勘違いしていたのだろうか。あるいは中国語では「椋鳥」がフクロウをも意味する可能性もあるが、検索の範囲ではそう言った用例は見当たらなかった。

*2:嘿は英語の"hey"に影響を受けた表現。というよりイライはイギリス人のようだからまさに"Hey"と言っていると考えるのが妥当であろう。以下そのような人間像をイメージして翻訳している。「はーい、元気?」は奇妙な訳。状況を考えれば元気なわけがなく、もっと相手を心配する言葉遣いがふさわしいはずだ。

*3:辞書的にはクヌギの木なのだが、ドルイド信仰において重視されるのはナラの木であるため、ここではナラとして翻訳した。方言ではナラの木を意味する小橡树という語も存在するらしい。いずれにしてもナラとクヌギは互いに近縁種である。

*4:ドルイドケルト世界における司祭。中文版『金枝篇』第9章「樹木崇拝」にこの表記がある。

*5:「ヤツ」と翻訳してきた「它」をこの部分だけ「それ」と翻訳しているのは、他の部分がイライの日記であるのに対してこの部分が地の文であることに対する配慮である。

*6:前節の内容を併せ見れば「フクロウがドルイド預言者の魂を伴ってきた」と解すべきであろう。

*7:イギリス人女性名の音訳と思われるが、不明。公式の英語版表記はGertrudeであった。イギリス人であることを踏まえれば日本語ではガートルードが一応の定訳だろう。カタカナのゲキウではあまりにも原音から離れすぎている。

*8:The London Season, Social Season of London. イギリス上流階級の社交活動が活発になる期間。クリスマス後から7月後半にかけての期間とされる。17世紀に初まり19世紀に頂点を迎え、第一次世界大戦後には廃れていったという。https://en.wikipedia.org/wiki/Season_(society)#Social_season_of_London

*9:ライ・ラウ・ガフェス(スェウ・スァウ・ゲフェス、Lleu Llaw Gyffes)はウェールズの神話・説話集『マビノギオン』の主要登場人物の一人。ライ・ラウ・ガフェスの物語についてインターネット上で閲覧できる翻訳には蜂谷昭雄「『マソヌイの子マース』対訳」(英文学評論 (1979), 40: [1]-62)がある。特殊な生い立ちから神の加護のあるライ・ラウ・ガフェスは滅多なことでは死なない壮健な肉体を持っていたが、妻とその不貞の相手の策略により死の条件を暴かれ、一度は殺されかける。この逸話を踏まえなければ背景推理の10節を理解することはできない。その下りが以下。

彼(ライ)はというとその日のうちに帰って来た。日の暮れるまでは彼らは語らいと音楽とうたげに過ごした。そしてその夜彼らは一緒に床に着いた。そして彼は彼女に向って、一度、二度と言葉をかけた。だがそうする間も一語も彼には返って来なかった。「どうしたのだ」と彼は言った。「気分が悪いのか。」 「私は考えているのです」と彼女は言った。「あなたが私に対して考えても下さらぬことを。というのはこうです」と彼女。「もしあなたに先立たれたらと、あなたの死が気がかりなのです。」「なるほど」と彼は言った。「神様がおまえの心づかいに対し報いられんことを。しかしながら神様が私を殺されるのでない限り、私を殺すのは容易でないのだ」と彼は言った。「では神様のためと私自身のために、あなたはどんな風に殺されることが出来るのか、私に教えて下さいな。なぜなら私の記憶力の方があなたの記憶力よりも身を護るにはよろしいでしょう。」「喜んで言おう」と彼。「私を打撃で殺すのは容易でない」と彼は言った。「それでもって私を狙う槍を作るには一年かかるのだ。それも日曜のミサが行われているとき以外には槍のどの部分も作ることなしに。」「それは確かですの」と彼女。「確かだ、本当に」と彼は言った。「私は家の中でも殺すことが出来ない」と彼。「また家の外でも、また馬上でも殺されず、徒歩でも殺されない。」「本当に」と彼女は言った。「それじゃどうしてあなたが殺されることがあるでしょう。」「では言おう」と彼は言った。「川の岸に私のために風呂場を作り、そして湯舟の上にアーチ型の枠を作って、次にはそれに十分にぴったりと屋根をふくのだ。そして雄山羊を持って来て」と彼。「湯舟のそばにおき、そして私自身が片足を山羊の背にかけてもう片足を湯舟のふちにかける。このようにして私を狙うならば誰でも私の死を来たらせるだろう。」「ほんとに」と彼女は言った。「私はこのことを神様に感謝します。それを避けるのはたやすいことです。」彼女はこの言葉を得るが早いか、それをグロヌ・ベビルに伝えた。グロヌは槍の製作に努め、一年が過ぎた当日に用意できた。(前掲論文)

なお人物の同定について友人W(@galway932)の助言を得た。ここに謝意を表する。