bellwoの中国留学日記

中国政府奨学金で留学した記録です(2018.9-2019.7)

【背景推理 翻訳】納棺師

翻訳・解釈の原案や引用に利用される際は当記事の URL を添えた上でその旨を明記してください。

 

※日本版未実装・ネタバレ注意

※日本語版公開前の私訳です。実装される日本語訳と齟齬がある可能性があります。

 

 

1. 学徒
母亲拥抱死神那一天,我决定成为他的学徒。

1. 弟子

母が死神を抱擁したあの日、僕は彼の弟子になることを決めた。

一张照片:年长的入殓师牵着卡尔的手走出墓园,卡尔回头看着身后的墓碑。

一枚の写真:年長の納棺師がカールの手を引いて墓地を後にする。カールは振り返り、後ろの墓碑を見ている。

 

2. 也许,我 ……
我想他更需要的是医生 ……

2. もしかすると ……

彼がより必要としているのは医者なのではないか……

一封退学信:伊索或许有一些自闭症,或许其他问题,总之,非常抱歉,先生,我们遗憾的通知您,他无法在我们这就读。

一通の退学通知:イソップには自閉症か、あるいは他のなんらかの問題があるようです。ともかく、非常に残念なお知らせとなるのですが、彼を我々のところで勉強させることはできません。

 

3. 步骤
庄重、准确、果决。

3. 手順

荘重に、正確に、そして果断に。

一张步骤说明:努力说服他们,如果不行,则进行下一步,为他们注射一些水和溴化物 ……

一枚の手順説明書:彼らの説得を試みるが、もしうまく行かなければ、次のステップに進む。彼らに水和臭化物を注射して ……*1

 

4. 死神的花束
鉛灰的墓园偶尔也有鲜艳的色彩,有时是花,有时是血。

4. 死神の花束

鈍色の墓地は時に鮮やかに彩られる。ある時は花によって、ある時は血飛沫によって。

一封信件:亲爱的伊索,好久不见,下午我会在墓园东角的黄玫瑰园等你,期待与你的见面。

一通の手紙:親愛なるイソップ、久しぶりだな。午後に墓地の東の黄薔薇園で待っている。会えるのを楽しみにしているよ。*2

 

5. 勇敢一点
那些彷徨者 …… 太过怯懦。

5. 勇気を出して

彷徨えるものたちは …… 臆病に過ぎる。

一份死亡报告:死因不明,死亡时间不明,唯一明确的只有行政管的签名,所以,勇敢一点,跟这个世界说再见。

死亡報告書:死因不明。死亡時刻不明。唯一明らかなのは行政官のサインのみ。だから、勇気を出して、この世界にお別れをしよう。*3

 

6. 盛开之后
死神的阶梯旁,不适合植物生长。

6. 花盛りの後

死神の階梯の傍は、植物の成長には適さない。*4

“ 孩子,她本就该走向死亡世界,而我,只是提供了一些帮助,你看,黄玫瑰花丛。很适合她长眠。”

「小僧、この女はもとより死後の世界へ旅立たねばならんのだ。俺は少し手伝ってやるだけだ。黄薔薇の花園が見えるか。あそこは眠りにつくのに丁度良かろう。*5

 

7. 休学期
他准备离开了……

7. 休学期間

彼は出発の準備をした ……

一篇日记:他收到了一份邀请函,我没看到内容,但那蕨类植物一般的火漆让我觉得,他不会再回来了。

一編の日記:彼は一通の招待状を受け取った。その中身を僕は見なかったが、しかしそのシダ植物様の封蝋を見て、僕は、彼の二度と戻らないことを予感した。

 

8. 最后一课

课题比我想象的复杂一些。

8. 最後のレッスン

課題は僕の想像よりも複雑なものだった。

一份报告:伤者杰伊·卡尔,曾遭受多重伤害,包括高空坠落引起的粉碎性骨折、利器造成的大量出血和大面积组织挫伤。

報告書:被害者ジェイ・カール、複数の暴行の形跡。内、高所からの落下による粉砕骨折、鋭利な刃物による大量出血と広範囲の内出血を含む。

 

9. 信使
我想这是给我的,而她,只是传递者。

9. メッセンジャー

これこそ僕に与えられたもので、彼女はただ言伝をしたにすぎなかったのだ。

一份遗物清单:一些杂物和一份邀请函,蕨类火漆,来自欧利蒂丝庄园。

遺留品一覧:雑貨数点・招待状一通・シダ様の封蝋、エウリュディケ荘園からのもの。

 

10. 毕业

棺木之中他面容庄重安详,我想,他应该会满意我的答卷。

10. 卒業

棺の中で威厳と静謐を保つ彼の顔を見て、僕は思った。彼はきっと僕の答案に満足したに違いないと。

一篇日记:我感受到溴化物流过他血管的波动,我知道我将要成为他,而他将变成自己厌恶的样子。

日記:彼の血管を臭化物が流れていく脈動を感じた。僕が彼になるだろうこと、そして彼が自分の嫌悪していた有様へと変わっていくのがわかる。

 

11. 赴约
我无法拒绝这次邀约,那里有太多人彷徨不前。

11. 約束の場所へ

この招待を断ることはできない。あの場所には進めぬままの彷徨えるものたちがいくらもいるのだから。

一篇日记:我终于能感受每次他引渡彷徨者时的喜悦,也明白了当初他赴约的迫切。

日記:彷徨えるものたちを送り出す際に彼がいつも感じていた愉悦を、僕はついに感じることができた。そしてまた理解した。彼の残した約束は切迫したものであるに違いないと。*6

 

 

 

 

 

 

20190308 18:32 一人称を修正

20190309 1:41 解釈に関する注を追記

20190312 冒頭の注意書きを追加

*1:なぜ「彼らに水和臭化物を注射」する必要があったのだろうか。結局説得は失敗し、イソップは退学しているようなのに。

*2:イソップに当てられた手紙の主は(実は存命であった)母であるという解釈もあるようだが、少なくとも訳者の語学力では文面から性別や年齢を同定することはできなかった。ここでは手紙の主はジェイであるという立場を採っている。

*3:5節の死亡報告書は誰の死亡報告書なのだろうか。文の配置を素直に読めば、これは説得に応じなかった「彼ら」の死亡報告書であると理解するのがまず妥当であろうか。「だから、勇気を出して、この世界にお別れをしよう」の部分は直訳。順接で接続する理由ははっきりしないが、語り手の病理の表現であろうか。死亡報告書に「彷徨えるものたち」への呼びかけのような言葉が書き込まれているのも不可解。一般的に死亡報告書は医師が作成し役所へ提出するものであろう(行政官のサインについて言及がある点から作中世界でもその仕組みには大差ないと推測される)が、医師の手による死亡報告書がそれを承認した行政官のサインについて言及するのは不自然とも考えられる。そこでもしこの死亡報告書をイソップが作成したものであるとするなら、「警察には露見しなかった」という趣旨の報告書なのかもしれない。しかし、その場合、この報告書は誰に報告するための報告書なのだろうか?

*4:「死神の階梯の傍は、植物の成長には適さない」にも関わらず舞台は黄薔薇の園であり、「成長に適さない」のメタファーが何処にあるのか不詳。翻訳に際して消化不良の点。諸賢の指摘を求む。

*5:「小僧」から始まる一節はジェイとイソップが出会った際の台詞として訳したが、注1の立場を採ると「再度母が死んだ」際の台詞であるとも解釈される。

*6:混沌としたストーリー全体を構成する上でおそらく最大の難問が4節の手紙である。時系列は母の死→(ジェイとの生活)→(おそらく全寮制の)学校時代→退学後の休学時代(再びジェイとの生活)→ジェイが荘園からの招待状を受け取る→ジェイとの決別→イソップが荘園へと推移していくものと考えられる。黄薔薇園で最後に起きる事件の存在を考えれば、4節の手紙の直後に事件が起こってくれれば最も整理しやすい(この手紙を登場させる理由がわかりやすい)が、休学期間→ジェイへの招待状という時間の幅が明言されている以上この説は採用できない。すると4節の手紙はせいぜい「黄薔薇園」の重要性を示唆する程度の意味しかないことになるが、それではストーリー構成上の必要性に乏しい。そこで注目されるのが注1で紹介した「実は母は仮死状態にて存命で、手紙は母が差し出したものである」という解釈だが、その場合イソップは母と再会しているはずで、そのことに関する言及が全くないのはミステリーの作風としても流石に無理がある。どの説を採ってもすっきりしないが、ここでは致命的な矛盾のない「ストーリー構成上の必要性に乏しい」解釈を採用している。